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藤田農園

藤田剛さんが会社勤めをやめて、帰農してからまだ十年もたっていない。故郷の福知山市にUターンしてから、隣接する丹波市市島町のNPO法人「丹波太郎」で、アイガモ農法を学んだ。

独立農家としてまる7年たった今は(2008)、3町の田んぼと少々の野菜をつくる専業農家である。近年、高齢化のために耕作しなくなった田んぼが増え続 けているが、藤田さんのように熱心な農家には「うちの田んぼも貸すから」と、ほとんど無償で提供される。放棄農地にして草ぼうぼうにするのは、農家として 忍びないし、周りに迷惑をかけるからという思いがあるからだ。
こうして毎年のように藤田さんの耕す田んぼが増えて、4か所に点在することになった。
しかも山あいの棚田が多い上に、アイガモ農法でやるから作業は通常の何倍もかかる。

アイガモが、イタチや鳥たちに襲われないように網を巡らし、その周囲には猪や鹿を防除する微電流が流れる電線を張る。それでも野生動物は懲りずにやってくる。

「去年は田んぼ一枚まるごと猪にやられてしまった。冬場はまるで漁師のようです」と苦笑い。イタチなどに破られた網の修繕作業が忙しいからだ。

藤田さんはさらに、有機肥料(牛糞や鶏糞の発酵肥料)や堆肥などもいっさい使わない自然農法にこだわっている。藤田さんの自然農法では、1反当たりの収量 はせいぜい250kg、通常の半分である。「なぜ、そこまでこだわるんですか?」と尋ねると、「当たり前のことをやっているだけ」と笑い、多くを語ろうと しない。大昔からの米づくりは自然農法であり、自然環境の保全のためにも、この方法が最良だと考えているのだろう。

コメのおいしさは、土と水に尽きるという。藤田さんの棚田は、山の清流水を使う。だから、専業農家も認める美味いコメができる。評判を聞き、例の中国ギョウザ問題の後、藤田さんのところにも米の注文が急増したという。しかし、去年収穫の在庫はすでに底をついていた。

丹波では5月連休にはほとんど田植えが済んでいるが、5月中旬がすぎても藤田さんの田植えは始まったばかり。網の修繕から柵づくり、苗づくりなど、すべて一人の作業だから、6月初旬までかかるそうだ。

多くの兼業農家は、苗をJAから買っているけれど、藤田さんは苗作りも自前だ。
「JAから苗を買っていたら、30町で70万円はかかる。とてもじゃないけど、やってられまへん。自前なら10分の1ですむけど、苗づくりも大変な手間がかかります」

米農家は、トラクター、田植え機、コンバイン、乾燥機、倉庫など機械設備にも金がかかる。藤田さんはすべて中古でそろえたが、それでも1千数百万円。藤田さんの年間売上は500万円にも満たないというから、農業がいかに儲からないか、押して知るべしだ。
「とにかく、楽しんでやらないと農業なんぞやってられまへん」
藤田さんはまたそう言って、あっけらかんと笑った。